photo by Keizo Kioku

束芋 → 中川幸夫

2018年3月22日(木) – 5月12日(土)

 

“花を乗りこえる。

剪って、切って、生身からしたたる粘液が、

いけるわたしの苦悩のなかから滲みでるまで。

花は見ている。

わたしは花という鏡に映じている。

花びらを落とした〈チューリップ星人〉の、

透き通って華奢な、

風にふるえる裸身とともに。”

— 中川幸夫

(中川幸夫作品集『魔の山』収録「花は魔の山」より抜粋)

 

 

この度ギャラリー小柳では、束芋と中川幸夫の二人の作家による「花」との対峙をテーマにした展覧会を開催いたします。束芋の個展「flow-wer arrangement」にて描かれた花と人体のウォールドローイングを敢えてそのままに残し、“花と心中する男”の異名を持ついけばな作家・中川幸夫(1918-2012)の代表作《チューリップ星人》、《闡 ヒラク》を含む写真作品9点を展示いたします。 

 

中川幸夫は香川県丸亀市生まれ。20代でいけばなと出会い、華道家元 池坊(いけのぼう)に属するも33歳で脱退。以後93歳で没するまで、他に類を見ない独創的な表現活動をたった独りで続けました。生花や植物、時に野菜をも用い、脳裏に焼きつく鮮烈なイメージを有する中川の表現は、いけばなに始まり、ガラス器制作や書に広がってゆきました。土門拳との交流により自らもシャッターを切るようになってからは、その特異な作品世界はさらに深化し、1997年に荒木経惟との二人展「花淫」(ギャラリー小柳)、1998年にはパリ・カルティエ現代美術財団の企画展「être nature」に写真作品15点が出展されました。アートプロジェクトへも精力的に参画し、2002年に行われた「第2回大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2003」のプレイベントでは、《天空散華》を披露。20万本のチューリップが上空約150メートルの高さから降りそそぎ、地上に100万枚を超える花びらが舞い散る中、舞踏家・大野一雄が踊る光景は大きな話題となりました。一方で山田洋次監督の映画「たそがれ清兵衛」(2002年)では題字を制作。ひとくせある毛筆の筆致は印象的で、いびつながらも力強い芯が感じられます。

 

中川の前衛的で既成概念を打ち破るいけばな、花の本質に挑むその姿勢は国内外で高い評価を得ており、作庭家・重森三玲、作曲家・武満徹、ファッションデザイナー・川久保玲、作家・柳美里といった異分野の表現者たちからも絶大な支持を得ています。

 

個性が剥ぎ取られた内臓や骨の一部に花をいけることで、ある一人の人間の生の芳香をかすかに匂わせる束芋のウォールドローイング《flow-wer arrangement》と、花という千態万様の生命体と人生をかけて向き合い続けた中川幸夫の写真。その競演を、ぜひ会場でご高覧ください。

 

ダウンロード
press release
koyanagi_tabaimo_nakagawa_pr.pdf
PDFファイル 232.7 KB