Arisa Kumagai, Single bed, 2018, oil on panel, 195 x 97 cm
熊谷亜莉沙 Arisa Kumagai|Single bed
2019年5月16日(木) – 6月22日(土)
⽗が孤独死した。
冬を越え、春になってしまったようで地元の新聞にも載った。
それが⽗であるか判別するのに2 ヶ⽉かかった。
彼はまだ50 代だった。
葬式も無かった。
その後彼の実家に直接⾏ったのは私ひとりで、⺟は⼤きな花束だけ彼に⼿向けた。
最近のお供え花は、それとは思えないほどに華やかできれいだ。
あれからもうずっと、⺟が⼿向けた美しい花のことを考える。
どうしようもなく⼈が⼈を愛してしまうことも、憎んでしまうことも、気が狂いそうなほどの寂しさも、
⼿放しがたい孤独も。
眠ることは⼩さな死だという。
私は今⽇も⾃分のシングルベッドで眠る。
熊⾕亜莉沙「Single bed」
この度ギャラリー小柳では、熊谷亜莉沙の初個展「Single bed」を開催いたします。
熊谷亜莉沙は1991 年大阪生まれ、京都在住。2013 年に京都造形芸術大学洋画コースを卒業し、2015 年に同大学大学院総合造形領域を修了。卒業・修了制作展では千住博奨励作品賞や優秀賞など数々の学内賞を受賞し、在学中にはシェル美術賞(2013 年)、上野の森美術大賞展(2014 年)に入選しています。2017年にギャラリー小柳で開催したグループ展「Portrait」に自身の祖父をモデルに描いた3 点の油彩作品で参加し、その不穏な存在感をたたえたトリプティクは国内外から大きな反響を得ました。本展では約2 年間をかけて取り組んだ新作の中から、シングルベッドサイズの大作《Single bed》を含む7 点を発表いたします。
熊谷の作品の出発点には常に自身のバックグラウンドが色濃く反映されます。しかし、彼女が表現しようと試みているのは、非合理的で矛盾に満ちた“どうしようもない”人間のありよう、富裕と貧困、生と死、愛と憎しみが表裏一体であるという普遍的な事実であり、卓越した写実表現は、自身が確かに目にしてきたものに形を与えるための手段なのかもしれません。
「Portrait」展で見せたLeisure Class*シリーズは熊谷の生まれ育った環境に由来する考え方や信条を視覚化する仕事でしたが、本展ではそのコンセプトの延長線上にありながらも、彼女の意識はより周囲に展開します。死という出来事に起因する人々の心の動きは、時に献花として、親が子に与えた子供靴として、信仰の対象として立ちあらわれ、それらを冷静にとらえた作品群は人間の本質の一端を提示するかのようです。
* Leisure Class:アメリカ人経済学者、社会学者ソースティン・ヴェブレンの著作『有閑階級の理論( The theory of the Leisure Class)』( 1899 年)の中で定義されたもので、きわめて高価な商品を社会的威信を示すためのみに消費するような人々のことを指す。
Installation view: photo by Keizo Kioku
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