撮影:三嶋一路

青柳龍太 Ryota Aoyagi|sign

2019年8月3日(土) – 9月27日(金)

 

数千個の重い荷物をただ運び続けるという作業の夜勤明けで疲れた足を引きずって、 

海沿いの倉庫から駅までの道を30分以上かけて毎朝歩いていた。 

トラックは通るけれども人は歩いてはいない道。 

 

ある朝、ある石を見つけて、僕は立ち止まった。 

それが一つだったならば、僕は気がつかなかった。 

それが二つでも、きっと僕は見逃していただろう。 

しかしそれは三つだった。等間隔に並べられた三つの石。 

 

唐突にそこに。 

 

どんなメッセージや目的があって誰がそうしたのかは僕には分からない。 

 

ただ僕はそこに誰かがいたことを知った。 

誰かがそこにいた痕跡。見逃してしまうような微かな合図。 

僕が今ここに確かにいるように。誰かもまた。 

 

労働で麻痺していた僕の頭が、ふっと軽くなった。 

 

その瞬間、それまでぼんやりとしていたこの世界が、急にその輪郭をはっきりとさせて目の前に現れた。 

朝日に美しく照らされて。 

 

ほんの些細な事をきっかけに。 

もしその意味を理解したならば、この世界はその姿を一変させる。 

その前にも、その後にも、等しく目の前に変わらずに在ったはずなのに。 

 

それなのに僕は忘れてしまう。またまどろんでしまう。 

だからこそ僕は思い出す為に。 

この世界からのsignを探し続ける。 

 

青柳龍太 

 

 

 

この度ギャラリー小柳では、青柳龍太の初個展「sign」 を開催いたします。

 

「画家が色彩をキャンバス上に配置するように、僕は、色彩と形と質感を空間に配置して一つの景色を作りたい。」

青柳龍太は 2005 年より、自らの感覚により見つけ出し収集したモノを、空間に精緻に配置す るインスタレーション作品を発表しています。陶器やガラス器、古道具、くたびれた布地、人形、用途のわからない異国の小品――青柳の審美眼により選び取られるモノは実に多種多様です。しかし、作られた 時代も場所も目的も異なるその一つ一つが作家の手により組み合わされ再構成された時、不思議な調和と 緊張感が空間にたちこめます。それはモノの宿命として人の手により世の中に存在し、数多の人の手を渡 るうちに重ねられた記憶と時間の気配であり結晶であるかのようです。青柳はこれからも何者かが発する 合図を、必然と偶然をはらんだ形あるものを、探し求めると同時に、その合図に気がつく人を待ち続けるでしょう。

 

近年の主な活動としては、東京都内の個人宅の庭に掘られた防空壕で、青柳は 9 日間限りの展覧会を行な いました。すでに取り壊されることが決まっていた薄暗い地下空間に明かりを灯し、2015 年と 2016 年に 集めたモノをそれぞれの部屋に並べ、「この空間には争いがない/この部屋には壁がない」と書かれたカ ードを棚に立てかけて、作家は、あらかじめ約束した時間に集まった数名の鑑賞者を迎えました。美術批 評家の椹木野衣氏はこの空間を「茶室」と評し、本質的に茶の精神を突いているとして次のように述べて います。

 

“限られた時間と空間の中から主人の手で選び抜かれ、訪れを待つ「もの」は、招かれた客に絶え間ない問 いを発する。しかし答えはない。そのことで見る者は、宙に吊られたかのように、自分が自分であるはず の居場所を失う。しかしその代わり、もうこの空間には争いがない。あらゆる由来と素性が無差別に共存 するから、この部屋には壁もいらない。”(椹木野衣「青柳龍太「2015」「2016」展 等価(ともしび)のための茶室」、 『美術手帖』2017 年 3 月号「REVIEWS 01」より一部抜粋)

 

本展では、ファウンドオブジェにより構成される新作のインスタレーションを披露いたします。

 

 

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