Hiroshi Sugimoto, Past Presence 001, Tall Figure, III, Alberto Giacometti, 2013

© Hiroshi Sugimoto  © Succession Alberto Giacometti (Fondation Giacometti, Paris + ADAGP, Paris) 2020

杉本博司|Past Presence

2020年3月14日(土) – 8月29日(土)

 

 

この度、ギャラリー小柳では3月14日(土)から8月29日(土)の会期で、杉本博司の個展『Past Presence』を開催いたします。

ギャラリー小柳での個展は、2014年以来6年ぶりとなります。

 

本展では、国内初公開となる「Past Presence」シリーズから新作4点を展示いたします。本シリーズでは、杉本の長年のテーマである時間と歴史を20世紀のモダン・マスターズの作品群によって探求しています。ジャコメッティ、ブランクーシ、ピカソ、マグリットなど、それぞれの作品を写した写真は彼の「建築」シリーズと同様に、無限の二倍の焦点(twice as infinity)で撮影されています。意図的にぼかされた写真はアーティストの理想的なフォルムや、脳内で発想されたイメージそのままの姿を浮かび上がらせ、私たちはそのなかに無意識のうちに馴染みのあるかたちを見出そうとします。杉本の表現はこのように私たちの視覚的記憶を呼び起こし、イメージとはどのように記憶されているのか——イメージは正確な記憶として想起されるのか——杉本は見る者に作品を取り巻くディテールを取り除き、作品本来の概念や本質を顧みるよう投げかけます。

 

なお、細見美術館では4月4日(土)より「飄々表具 —杉本博司の表具表現世界—」、京都市京セラ美術館では5月26日(火)より「杉本博司 瑠璃の浄土」が開催中です。また、森美術館でのグループ展「STARS展:現代美術のスターたち——日本から世界へ」にも参加いたします。あわせてご高覧頂ければ幸いです。

 

 

Past Presence

 

2013 年、MoMA からの彫刻庭園撮影のコミッションが来た。フィリップ・ジョンソンの設計になるこの 彫刻庭園には、モダニズム彫刻の名作が並べられている。私は「建築」シリーズのコンセプトに準規して 彫刻庭園の撮影に臨む事にした。数ある名彫刻の中で、まず私の眼を引いたのはジャコメッティの彫刻だ った。その研ぎすまされたフォルムは、人間の肉体から肉の部分を削ぎ落して、さらに残るもののみを、 極限の状態で表すことに成功しているように思われた。私は私の写真によるアプローチが、すでにジャコ メッティの彫刻においては成就されているのではないのかと、思わざるを得なかった。私はこのジャコメッティの彫刻に二度カメラを向けてみた。昼日中の白日の時、そして夕暮れ時の薄明の時。私は能舞台上に現われる、二人の人物像を思った。能舞台では死者の魂が復活して現われる様を描く。前シテと呼ばれ る前半では、土地の者が死者の変わり身となって、死に至った無念の情を述べる。そして後シテの後半では、その死者の亡霊が再び現われ、成仏できずにいる苦渋の舞を舞う、という設定だ。演劇のうちに死者の姿を垣間みる、そのリアリティーがどれほどのものであるかは、演技の迫真力とともに、鑑賞者の心眼の力量にも負う所が多い。私はジャコメッティを写しながら、能舞台を見る心持ちがした。能舞台では過去が今として(Past Presence)蘇るからだ。私はこのジャコメッティからの啓示を得て、次々に他の作品群にも挑んでいった。

 

杉本博司

 

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