Hiroshi Sugimoto, Brush Impression 0884, 2023


杉本博司

火遊び Playing with Fire

 

2023年9月5日­(火)- 10月27日(金)

12:00–19:00

*日 / 月 / 祝日休廊

 

この度、ギャラリー小柳では202395日(火)から1027日(金)の会期にて杉本博司の個展「杉本博司 火遊び Playing with Fire」を開催いたします。本展は、杉本が暗室の中で現像液や定着液に浸した筆を駆使して印画紙に書を揮った最新シリーズ「Brush Impression」から《火》を中心とした新作を初公開いたします。

 

 

子供の頃、火遊びをした。火はあぶないということはうすうす知っていた。火遊びを見つかると大人が騒ぐのでますます火遊びをした。周りにマッチ売りの少女がいて、悪ガキたちをそそのかし焚き付けた。

 

思春期の頃、火遊びをした。なにやらよくわからない説明のつかない衝動が突き上げてきて、なんでも自分に説明しようともがく私の理性は、木っ端微塵にくだけ散った。

 

学生の頃、火遊びをした。学生運動のさなか、火炎瓶は若者の魂を煽った。機動隊がせまる、必死で逃げた。こんなに早く走れるとは思ってもみなかった。

 

中年になって、火遊びをした。しかしすぐに後悔し別の火遊びを思いついた。深夜、和蝋燭に火をつける。風もないのに爆()ぜる。木製暗箱で蝋燭の一生を撮った。儚い一生だった。

 

晩年になって、火遊びをした。残された時は火を見るより明らかだ。そこで火を見つめてみた。炎の姿は火という文字に私のなかで結晶していった。印画紙に定着液で火を描いた。写真とは因果な商売だ。意外と真は写るものだと今更ながら気がついた。

 

杉本博司

 

 

本シリーズは、三年におよぶコロナ禍の後にニューヨークのスタジオに戻った杉本が使用期限を迎えていた大量の印画紙を見つけたことから始まりました。本来なら劣化した印画紙は使用できませんが、古美術品が劣化の果てに美しくなっていくことに習い、杉本は劣化した印画紙を用いて作品を制作することにしました。「書」の技法を暗室に持ち込み、現像液や定着液に筆を浸し、手探りで印画紙に筆を揮いました。

 

今回の展覧会では《火》を中心に展観いたします。杉本によるところの「誕生の秘蹟でもあり、燃え尽くす終焉の響きでもある」火と幼少期からさまざまな関わりを持ち、「In Praise of Shadows 陰翳礼賛」シリーズでは、蝋燭に灯した火が辿った時間の軌跡を一枚の写真に収めました。本作では、薄暗い暗室の中で「時に手を出し足を出して、燃え盛る」様子を映し出すように筆を使い分け筆跡に多様な質感を与えながら、まるで火遊びをするかのように《火》を無数に書き続けました。一定時間印画紙を光に晒すことで文字に淡い桃色や赤色を写し、さながら大火事にでも見舞われたかのような色とりどりの《火》が展示空間を覆います。その傍には「炎」や「灰」が密かに紛れ込み、時に燃え上がり時に灰となって静まるさまざまな《火》の姿を物語っています。

 

杉本はこれまで、すでに「ある」ものに自身の解釈を加えて新しい表現へと発展させる試みを続けてきました。これを伝統的な和歌の手法になぞらえ、「本歌取り」と表現しています。今回の作品は、臨書を始まりとして「本歌取り」の解釈をさらに広げ、文字の起源について考察し、自然の形象である「炎」そのものを転写しました。杉本は試行錯誤の過程で、人類最古の文字の一つとされる「楔形文字」、古代エジプトで使用された象形文字が記された「死者の書」、大本教祖出口なおが神の言葉を書きつけた「お筆先」を参照しながら、表音文字の「あいうえお」に表意文字の漢字を当てはめて歌にした一連の作品を制作しています。 

 

*本シリーズの制作風景を公開しております。ぜひご視聴くださいませ。

 ©︎Sugimoto Studio                                                       



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